西方寺の地獄絵図

「橋詰十王尊像」で有名な西方寺(岳翁山(かくおうざん)往生院/津島市天王通り四丁目23)には、十王尊に因んで元禄13(1700)年に作られた掛け軸があり、お盆時期だけ一般公開される――。

 

前回十王尊のお話を伺った時(http://tsushima-deratera.jimdo.com/2018/07/01/西方寺の十王さん/)、安部真誠住職にそう聞いた私たちは、盂蘭盆が来るや否や西方寺を訪ねた。

先ずは、本当にお忙しい中お時間を割いてくださった御住職に、心より感謝を。

 

住職 ちょうど去年、修復したんです。作られたのが元禄年間ですから、300年以上が経っています。100年に1度くらいの割で修復しているので、3度目の修復が終わったばかりということになります。それなりのところに出すと凄く高いんですけど、たまたまご紹介いただいて、1本直すくらいの金額で4幅ともやってくださったんです。

 

住職 ボロッと剥がれちゃってるところもあるんですけど……同じ色が出せないので、補色はしてないです。掛け軸は紙製なので、強いものではないんですけど……過去の天然の色料を使っていますので、色褪せは少ないんですよね。もっとも、年に一度しか出してないので、痛みは少ない方なんでしょうけど。

 

住職 十王さんは、一番から順に並んでいます。上に小さく描かれた仏様が、「本地」といって、本来のお姿だとされています。元々十王さんは儒教や道教の影響が大きいので、冠や着ている物も中国風の特徴がありますね。

 

記者 よく見たら、凄く残酷ですね。

住職 それでも、第一から第五までの方が、まだライトですよ(笑)。子どもの頃は、怖かったですけどね。地獄の苦しみというのは、何百回、何千回、何万回と、殺されては生き返り、殺されては生き返り……ずっと繰り返すというのが、この絵なんですよね。普通だと死んでしまうんですけど、一回死んでるからそれ以上死なないので、ただ苦しみだけを与えているのが地獄なんですよね。

 

住職 これが、脱衣婆さんですね。左にいるのは旦那さんともいわれている懸衣翁(けんねおう)です。脱がせた衣類を枝に懸けて、枝がしなる重さによって価値を調べる訳ですよね。

Q. 脱衣婆の旦那さんは、閻魔大王様という話もありますよね?

住職 その説もあります。脱衣婆さんは人気があるんですね(笑)。

 

住職 閻魔大王の傍には、必ず浄瑠璃の鏡があります。鏡の前に引き出されたら、生前の悪いことをしたのが映っちゃうんです。

 

住職 何故かしら、お地蔵さんが真ん中に描かれているんです。六道輪廻の地蔵尊とか、六地蔵とか……お地蔵さんは6体が一つのセットになることが多いんです。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天という6つの世界を走りまわらなければならないということで、6体に分身するんですね。あちこちに行って救済をするのが、お地蔵さんの役目なんです。それで描かれてるんだと思いますけど……えらい小さく描かれてますよね(笑)。閻魔さんの本地はお地蔵様ですから、何故か上にも下にも描かれていることになります。

 

住職 これは多分、煙なんでしょうね。「業川(ごうかわ)」という熱湯で息が出来ないくらい臭い川があるそうですので、臭いを表現してるんじゃないかと思うんです。

 

Q. この鼠は何でしょうね?

住職 ……何でしょう(笑)?涅槃図には、色んな動物が描かれていますけどね。遊び心でしょうか……良く気付かれましたね。

 

住職 どうです……第六からの軸の方が、地獄の責め苦もハードでしょう?火焔地獄に、血の池地獄……でも、亡者たちは死なないですからね。この舌を抜かれるところは、閻魔さんの前に描かれることが多いんですけどね。

 

記者 これは、岩に押し潰されているんでしょうか?

住職 いや……氷ではないかと思います。

 

住職 これは、まさに「火の車」なんでしょうね(笑)。

 

住職 こういうものを子どもに見せて、「悪いことをしちゃいかんよ」と人間が持って生まれた良心に訴えかけるだけでなく、「悪いことをするとこういう目に遭うよ」という戒めのものなんですよね。この絵には、子どもは描かれてないんです。子どもというと、賽の河原でお地蔵さんに守られていくのかと思うんですけど、この世界は大人ばっかりなんですよ。その辺りの詳しい事情は、私にも分からないんですが……この絵が描かれた時代、子どもさんは凄くたくさん亡くなられています。昔ですから、今なら普通に助かられる方でも死んでしまいますし、過去帳を読みあげると、一歳に満たないような生まれてすぐ亡くなった方がたくさん載っています。

 

住職 地獄では、どうしようもない人は永遠に這い上がれないんですけど……初七日に第一の秦広王、五七日(35日)に第五の閻魔王と続いて、七七日(49日)の泰山王で大方決まって、百か日の平等王に多少救済してもらって、最後の三回忌に五道転輪王から「勘弁してやるから、人間界に戻って来い」と、優しいお裁きを受ける人が多いみたいです。人間界は、極楽にも、地獄にも、どっちにも通じるということですね。この何十億という人々が暮らす地球上で少しでも幸福に生きていく為に、それぞれ助け合って自分勝手な行動を慎んで生きていくのが、人間として大切なことです。この絵を通じて、そんなことを思っていただきたいですね。